唄が上手くなりたい、もっと沖縄民謡を上手く歌いたい、という方への一助となればと思い、沖縄民謡研究所に通っていた頃に私が習ったことや、一人でもできる練習方法を挙げてみました。
目次
沖縄民謡研究所の先生に言われたこと – 唄が主人である
私は以前、沖縄民謡研究所に通っていました。研究所というのは、気軽な三線教室よりもっと濃密なお稽古事と考えていただければと思います。
私はそこでは沖縄民謡を中心に、琉球古典も少しかじっていました。沖縄には元々縁もゆかりもないナイチャーで、音楽の専門教育を受けたこともありませんが、一応流派内のコンクールも最高位までやりました。
このような体験から、三線の唄、沖縄民謡を上達したいという方へ何かお役に立てればと思い書いたのがこの記事です。けっしてプロ並みの者ではありませんが、初心者は脱したと思いますので、習い始めたばかりの方に少しは参考になれば幸いです。
はじめの頃に先生からよく言われたことは、唄と三線の主従関係です。まず唄が先にあり、三線は後からついて唄を支えるものである。
手=三線は、できるだけ家で練習してきなさい、と常に言われていました。手(三線を弾くほう)については、たしかに、たった一人でトレーニングのように繰り返すことである程度上達できます。
三線を独学している方で、三線はとてもうまいのに、唄の上達に伸び悩んでしまう、という方のお話を耳にしますが、その理由もいまではなんとなく理解できます。
手を自分で練習する一方、教室では何をするのかというと、声の出し方と、発音のチェックと矯正と訓練が主でした。ともかくそれほど、歌を重要視するものなのです。そして、一人では身につけづらい部分でもあります。
先生によれば私たち本州の人間は放っておくとすぐナイチャーっぽい唄い方や発音になってしまうそうですが、指摘されないとわからないものです。
声に気を配れるように、まずは工工四を暗譜する
それから先生によく言われたことは「暗譜してこい」ということでした。歌詞も、最悪まずは1番だけでもいいから暗記するようにと。
なぜなら、そらで弾き歌えるようにならないと、声の出し方にまで気を配る余裕が持てないからです。
稽古中はいつも工工四を机に出してはいましたが、演奏しながら見るためというよりは、先生からの細かい指摘をメモるためでした。
奄美民謡と沖縄民謡では、声の出し方がちょっと違う
その頃ちょうど、奄美出身のシンガー元ちとせがヒットした後でしたが、沖縄本島の民謡ではあの歌い方は使わないよ、というのも初めの頃先生に教わったことのひとつでした。
あの独特の歌い方はファルセットとこぶしをミックスしたような発声で、奄美ではグインと言われるものですが、沖縄民謡では基本的にファルセットは使わず、地声に近い声の出し方をするということでした。
こういう知識もある程度は知っておくことで練習の助けになります。
良い声を出すための身体の使い方
声の出し方について、私が研究所の先生によく言われていたのは、こんなことです。
- 横隔膜を上げる。こうすることで声色がクリアになるそうです。
- 下あごには、力を入れない。やたら動かさない。
- 肩の力を抜く(三線を弾きながらなので、難しいものですが…)。
- できるだけ正座する(唄う間だけでも)→背筋を伸ばす必要性
- 左手で調子を取る(例えば、高音になるところは開いて挙げる、など)
他にも色々とかなり細かいことまで言われたものです。全て身についたかと言われるとあやしいのですが。
ともかく、声を出すことは体を使うこと、良い声を出すためには、そのための体の使い方を覚えること、という訓練を繰り返ししたように思います。
本当にスポーツと同じようなもので、体に覚えさせることが大切だと教わりました。
このように、研究所ではなかなか「体育会系」な方法で指導を受けておりました。しかもラッキーなことにごく少人数で稽古をつけてもらえる環境で、時期によってはマンツーマン、多くても3名くらいまででした。しんどいけど非常に素晴らしい体験をしたと思っています。
沖縄民謡を本気で上達したいならば、研究所に入ることをおすすめします。
ただしなかなかにお金もかかります。月謝以外にコンクールの認定料や会費、衣装代など。
そこまでの覚悟はない、やはり独学しかない。それでも沖縄民謡を上手に歌えるようになりたいという方は、まずはどんなジャンルにも通用する「良い声の出し方」を掴むことを目指してみてはと思います。
ボイストレーニング用マウスピースを使う
「顔面エクササイズ」グッズじゃないですが、器具を使って自宅で少しずつトレーニングすることで良い声が出やすくなる、という練習方法があります。これは研究所や教室に通わずとも、自分ひとりでできる練習です。
使い方は口にくわえて声を出すだけ。1日5分でいいそうです。
例えば、これは先生からの受け売りなんですが、ちょっと試してみてください。下あごに力を入れて口を「イーッ」とやると、喉が締まって声が出づらくなるでしょ。
大きく通る声を出すにはこの逆で、下あごとのどの力を抜いて自然にしておく必要があります。
今度は下あごを指で押さえたまま歌ってみてください。なんだか喉が開く感じがしませんか?
以上のように言葉で説明しても伝わりづらいかもしれませんが、このマウスピースを口にくわえることで
下あごが固定される
↓↓
自然とのどが開く
↓↓
強制的にお腹から声を出さざるを得なくなる
という流れが自然に身につきます。妙な外見の道具ですが、意外に理にかなっています。それもそのはずで、ボイストレーニングのプロが開発したものだそうです。
腹から声を出す感覚がなかなか掴めない方や、年齢を重ねて声が出づらくなったと感じている人には、良い助けになると思います。
ボイストレーニングの本を読んで勉強する
他に独りでも歌を上達する方法といえば、ボイストレーニング、ボーカルトレーニングの本を読むことです。良い声の出し方は、基本の部分はどんなジャンルでも同じです。
三線の唄を上達するのには、もちろん民謡研究所に入ってみっちり稽古をつけてもらうのが近道です。ただし、声の出し方については別に勉強するほうが効率が良いかもしれません。
その理由は第一に、沖縄民謡研究所では、唄についての指導内容は、節回しや発音がその中心になりやすいこと。声の出し方が元々ある程度できている人にはこの指導は非常に効きますが、そうでない人にとっては、まず土台をなんとかせねばという問題に行き当たるのです。
第二に、先生によっては感覚的な指導の仕方になってしまう場合があること。「もっとバーっと、ガーッとやるんだよ」といったような。ほら、野球の殿堂に入った名選手の指導が凄すぎて意味がわからなかった、なんていうエピソードがあるでしょう。研究所の先生も名演奏家であるがゆえに、三線初心者にはちょっと理解しづらい、というケースも耳にします。
そこで、研究所を利用する人もそうでない人も、一度はボイストレーニング、ボーカルトレーニングの本を読むことをお勧めします。
読むならまずは2、3冊をまとめて読むのがおすすめです。なぜなら、体系的に把握できるからです。それぞれの本には違う理屈やメソッドが書いてあるでしょうが、いくつかは共通点があるはずです。その部分はどんなメソッドであれ重要な部分だということ、ひいては三線・沖縄民謡の唄の上達にも効くと考えられます。
本の選び方はひとまずなんでも、自分に合いそうなものを選べば良いと思いますが、ここではタイプの違う3冊を挙げてみます。基礎から順番に学びたい方におすすめの本はこちら。
高い声が出なくてお悩みの方には、この本がおすすめです。これ以外にも高い声・ハイトーンボイスについて書かれた本がいくらかあります。
もっと掘り下げてしっかり学びたい方にはこの本もおすすめです。韓国人のプロトレーナーが書いた本で「そもそも、唄とは」といった根源的な面にも触れた、ちょっとプロ寄りの内容です。
独りでコツコツ練習し続けるのが苦にならなければ、それなりに効果があるはずです。本の代金も、3冊買っても1万円にもならないでしょう。
ボーカルトレーニングを受ける
研究所に通っている人の中にも、あえてボーカルトレーニングのレッスンを別に受ける人もいます。もちろん先生の教え方が気に入らないというわけではなく、より向上を目指してのことでしょう。
声を出す、歌うということは結局のところそのための身体を作るということでもあり、歌い方・良い声の出し方の基本は人間である以上どんなジャンルでもおよそ共通です。
三線を独学で練習している方や、サークルに参加している方も、短期間でもボーカルトレーニングを受けに行ってみてはいかがでしょう。別にそのスクールが沖縄民謡の専門でなくても、歌の訓練を受けたことがない方なら、かなり良くなるはずです。
例えばシアーミュージックという音楽教室では無料お試しレッスンをやってます。
本入会してからめっちゃ高い値段だったらやだなあと思って調べてみたら、1レッスンあたり4,000円くらいだそうです。意外と安いんですね。
那覇にもスクールがあるそうですので、沖縄県内の皆様にもぜひ。
歌の上達は時間がかかりますが、一度掴んでしまえばそうそう忘れないもの。ぜひあきらめずに続けてみてください。